裏窓(原題:REAR WINDOW) [1954年 アメリカ]
「アメリカの先進性に驚き」:☆☆☆☆
TBSラジオが配信するポッドキャスト「荻上チキ Session22」を良く聞いているのですが、10月16日放送分で「ヒッチコックの魅力」という特集がありました。
チキさんが映画の師匠としている、成城大学准教授の木村建哉さんをゲストに迎えてのアルフレッド・ヒッチコック談義なのですが、これがなかなか面白い! ヒッチコック作品を観ずにはいられなくなり、早速ツタヤに行って60年前の古典映画「裏窓」を借りてきました。
■関連リンク:ポッドキャスティング
→ 2014年10月16日(木)「荻上チキ Session22 〜ヒッチコックの魅力〜」
アメリカの先進性に驚き! 文化レベルが日本と雲泥の差
まず、この映画「裏窓」の公開は1954年。日本でいうところの戦後9年目です。戦後の焼け野原からようやく復興し、経済が急成長し始めた頃です。
1954年(昭和29年)は、どんな年だったのか? Wikipediaでチェックしてみました。
- 街頭テレビで、力道山やシャープ兄弟に人気が集中。
- アメリカの水爆実験により、日本のマグロ漁船第五福竜丸が被爆。
- NHK、大阪と名古屋でテレビ放送開始。
- 明治製菓が、日本初の缶入りジュースを発売。
- 映画「七人の侍」「ゴジラ」「二十四の瞳」公開。
昔の日本といえば、高度成長期を描いた映画「ALWAYS 三丁目の夕日」は、1958年(昭和33)年を舞台にしています。裏窓はこの時代より4年前もに公開された映画です。1950年代中頃の日本は、白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機を「三種の神器」として、みんなが憧れていた時代だそうです。
まだ日本が経済的に貧しかったそんな頃に、アメリカの映画「裏窓」の冒頭では、こんなシーンが出てくるのです……。
- 骨折中のカメラマン「待てよ、ジッとしてられるか。6週間窓から近所を眺めているだけなんて」
- 雑誌の編集長「グッバイ、ジェフ」
- カメラマン「こんな退屈のまま放っとくと、何かしでかすぞ」
- 編集長「例えば?」
- カメラマン「結婚だ。(取材で)もう飛び回れなくなる」
- 編集長「した方がいい。孤独な老人になる前にな」
- カメラマン「考えられるかい? 暑いアパートへ帰ると、洗濯機がガタガタ鳴り、自動皿洗い機にゴミ処理機。ガミガミ女房」
なんと!!!
この時代に、アメリカには高層アパートがあり、洗濯機があり、自動食器洗い機、ゴミ処理機まであるのです。
日本とは雲泥の差。うーん、よくもこんなに文明の発達した国と戦争をしたもんだな……と映画冒頭でいきなり感じ入ってしまいました。ちなみに、日本ではこれから白黒テレビが普及し始めようとしている時に、アメリカではカラー放送が始まっています。
後の1980年代後半、日本は世界第2位の経済大国に登りつめます(現在は世界第3位)。しかし、この当時の日本人は、映画を通してみるアメリカを、羨望の眼差しで未来の国を見ているような意識だったのでしょうか? そんなことを脳裏に据えながら、この映画を観るハメになりました。
すごく長い前置きになりましたが、映画「裏窓」を観た率直な感想は、「やっぱり昔の映画だな」と、そのままの感想を抱きました。しかし、面白かったのは映画なのに劇場で演劇を観ているような気分になったことです。出てくる場面が、骨折したカメラマンの部屋と、窓越しに見る向かいのアパートの風景のみ。しかもワンカットが長い。その狭い範囲でのストーリー展開が、舞台演劇っぽいなと思った訳です。
エンタテイメント性に関しては、古典映画とはいえ侮れず、全く飽きることなく最後まで見入ってしまいました。「一体どれが事件へのフラグなのか?!」と、切り替わる場面を「これがヒントなのか?」「これはなんだ?」といちいち気になり、一昔前の推理系アドベンチャーゲームをやっているような感覚に。
割とのんびりとした展開ではじまるのですが、後半は一気にサスペンスモードに突入します。
ヒッチコック映画は映画の教科書や手本といわれ、のちの映画史に大きな影響を与え続けているのですが、派手なカメラワークやSFXもなく地味でありながらも、魅せる手法は流石だな、と素人ながらも感じます。もちろん60年前の映画なので古臭いですが、ここら辺りがサスペンス映画の源流と思えば、その基礎が知れる作品とも言えます。今やスマートフォンで映像を手軽に撮影・編集し、YouTubeにばんばんアップする時代ですので、映像に興味がある方は、カメラワークや編集という視点で観ても為になるでしょう。
皆さん必見! という訳ではありませんが、クラシック映画を観てみたいと思っている方は、ぜひその一本に加えてほしい作品です。
ちなみに、ヒロインのリザ役、グレース・ケリーはめちゃくちゃ美人です! これ目的で観ても良いかも。
裏窓(REAR WINDOW)予告編
ヒッチコック劇場という30番組。
僕が高校生だった頃、テレビ大阪(テレビ東京)で「ヒッチコック劇場」という30分のテレビドラマを放送していました。毎回1話完結のショートサスペンス。これにめちゃくちゃ大興奮させられて、当時はテレビの前で姿勢を正して、オープンングテーマの「♪チャッチャ、チャラララ、チャッチャチャ〜」から手に汗握りながら見ていました。
多分、この番組にインスパイアを受けて、日本で「世にも奇妙な物語」が始まったんだと思います。
【追記】YouTubeにアップされていました。アイデアだけで、こんなにもスリル。凄いですよ!23分で見れます。ぜひ。
新・ヒッチコック劇場『南部から来た男』(85) “Man From The South”
ここにコメントさせていただく場合の名前というのは、本名でなければならないのでしょうか?
ハンドルネームですみません。
女子高生ヒューマンボクサー(で合ってます?)のRinkaさんをグクっていて、こちらに辿り着きました。
「裏窓」。やっぱり今初めて見ると「古臭い」ですよね。
私(と云っても男ですが)も「名作」を観て、「面白かったけど、
もっと昔に観たかったァ〜」と思うことがよくあります。
ところが最近、ちょっと思いがけない経験をしました。
先日CATVのCSチャンネルをザッピングしていて、1966(昭和41)年公開の大映映画「陸軍中野学校」をたまたま観ました。モノクロ。古臭い映画のハズが、いつの間にか見入ってしまったのです。
私には、映画の中で陸軍の将校を演じていた役者さん方が「本物の大日本帝国のエリート陸軍軍人に見えた」んです。やはり帝国陸軍軍人だった今は亡き伯父の姿が重なりました。司令官役の加東大介さんはじめ、実際に太平洋戦争に従軍された方も多かったので、あながち私の思い込みだけではないようです。
私の「名作」に対する見方を変えた経験でした。
乱筆乱文、お許し下さい。