ヒミズ [2012年 日本 / 日本上映 2012年1月14日]
「マンガを映画化。その完成度!」:☆☆☆☆☆
マンガの映画化やドラマ化。原作を忠実に再現しようとするあまりチカラが入る過ぎるのか、どことなく微妙感が漂い、ガッカリした経験がある方、案外多いのではないでしょうか。
- 役者の台詞に、しらじらしさを感じたり。
- 短くまとめる為に、原作の魅力を込めきれなかったり。
- 妙なコンピュータ技術を駆使するあまり、台無しになったり。
しかし、それとは真逆で「原作のマンガに思い入れがあるにも関わらず、映画化された作品が最高だった!」という、映画作品に出会いました。
古谷実の漫画「ヒミズ」を、園子温監督が見事に映画化。
主役は、悲惨すぎる中学3年生、住田君。たまにしか帰って来ない父親は、息子に金をせびり、なければ殴る。頼みの母親は、どこかのオッサンと駆け落ち。そんな住田君の夢は「平凡な生活」を送ること。
ただただ、ふつうに生きたい。
そんな願いすら叶えられない、住田君の心の葛藤を描ききったのが、本作「ヒミズ」です。ヒミズとはモグラの種類で、日不見とも書く。日の目を見ず、暗い中でひっそりと息づく。そんな世界観がそこにはある。
そう、この作品のテーマは暗い。どん底に暗い。
住田君はじめ、キャラクターの精神的葛藤を、はたして映像化できるのか。
3.11東日本大震災、発生直後にクランクイン。
映画「ヒミズ」は、園子温監督のもと、東日本大震災発生直後より撮影がはじまった。映画では、原作には無い「震災」も盛り込まれている。
はじめから、いきなり原作とは異なる震災直後の設定でスタートし、そのままヒミズの世界へと突入する。ストーリーの運び方は、あくまで原作に忠実。原作を何度も読んだ僕は、展開を把握しているにも関わらず、執拗に心に釘を打ち刺され、苦しみを味わわされた。
これは園子温監督の圧倒的なこだわりと、それを演じる役者達の真に迫る演技力によるものだろう。
とにかく、心臓を握りつぶされるような苦しい思いは、初めて漫画「ヒミズ」を読んだ時とおなじ。いや、それ以上に衝撃を感じているかも知れない。
東日本大震災という設定を盛り込まれた「ヒミズ」は、園子温監督の原作へのリスペクトをひしひしと感じる、アナザーストーリー的「ヒミズ」として見事に完成している。
とにかく、「あの人気マンガが映画化(実写化)!」というキャッチフレーズを避けていた僕にとっては、衝撃的な出会いでした。
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<最後にひとこと>
園子温監督、現在は井上三太の原作のマンガ「TOKYO TRIBE 2」の映画製作を行っているようですね。かなり期待高まりました。楽しみです!
*(左)キタノ、(右)井上三太先生(2010年 個展「井上三太展」渋谷パルコにて)