僕が彼女と出会ったのは、8年前。星羅が18歳の頃でした。
当時僕は、ロッカーズ・アイランドが運営するダンスホールレゲエ専門のウェブマガジン「ROCKERS channel」の編集長を務めていて、『外部ライター募集』に彼女が応募してくれたのが出会いのきっかけです。
18歳で、まだ未成年。ダンスホールレゲエの主戦場である深夜のクラブへは出入りできないので、昼間の野外イベントの取材をお願いしたのが、お仕事としての最初の関わり。彼女はライターで、僕が編集者としての立場で、イベントレポートやアーティストインタビューなど、たくさんのコンテンツを作りました。
現在は、僕がフリーランスとして独立していたり、ROCKERS channel自体が終了していたりで、直接一緒には仕事をしていません。
しかし星羅は時々「会いたいです!」と連絡をくれるので、年に一度は食事をしています。そして先日、東京・中目黒でシンガポール料理を食べに行ってきました。ちなみに年齢的には18歳も歳の差があるので、親戚のおじさんと姪っ子のような関係ですね。
今回は、そんな18歳年下の彼女との「ライター談義」をお伝えします。
インタビュー記事が上手い、ライター與那嶺 星羅
彼女の名前は、與那嶺 星羅(よなみね せいら)。
沖縄県出身で、現在は神奈川県の横須賀で暮らしています。どちらにも米軍基地があり、横須賀は沖縄と空気感が似ているそうです。
彼女は自由な生き方を謳歌していて、おなじ街に何年も暮らし続けるということはありません。日本各地を転々とし、ワーキングホリデーでカナダへ移住している時期もありました。カナダでも、現地で暮らす日本人向けのフリーペーパーを出版する編集部で働いていたのです。現地を取材したり、カナダを訪れた日本人アーティスト(きゃりーぱみゅぱみゅ)のライブをレポートしたり。
とにかくメディアが好きで、雑誌、ウェブ、フリーペーパー、ライナーノーツなど、場所を問わないたくさんの媒体に関わっています。そして最近は「HARDEST」という、ストリートカルチャーを伝えるウェブメディアで記事をよく書いていて、僕はそれを読ませて頂いています。
- GACHA|ダンスホールの三大要素 “ギャル”と“低音”と“黒い音”
- Awich|The Japanese Baddest Bitch
- 6月3日公開 窪塚俊介とRUEED 実兄弟による初共演映画『スカブロ』
- TRIGA FINGA|UNRULY(=掟破りな)JAPANESEと呼ばれる男
北野「HARDESTのインタビュー記事、どれもグイグイ惹き付けられる内容で面白かったよ! 星羅が書いて、編集の人が手を加えてくれているの?」
星羅「良かったですか。うれしいです! 編集さんは誤字脱字など基本のチェック程度で、ほとんど私が書いた文章そのままなんです」
北野「へぇぇ〜。インタビュー記事って長いから途中で飽きがちなんだけど、星羅の記事は、何度も山場があって、最後まで読み切らせる上手さがあるよ。冒頭と〆の構成もいい感じだし」
彼女の今の立場は、フリーランスライターです。この夜は「ライターのお仕事」について語り合いました。
なんでも上手く書ける訳じゃない。インタビューが得意!
星羅とのライタートークを、少しご紹介します。
ライターは、どんな文章でも上手に書けるという印象があるかも知れませんが、そんなことはありません。得意不得意があります。星羅はインタビューが好きだ、という話になりました。取材をして、文字起こしをし、文章を整え、さらに話の順序を入れ替えて伝わりやすく構成するそうです。
ひと口に「取材記事」と言っても、相手が嫌がりそうなことでもズバズバと斬り込む週刊誌タイプもあれば、その人の魅力を自分なりにキャッチしてポジティブに発信するタイプもあります。星羅は後者です。
また、インタビュー記事は得意でも、コラムは苦労するそうです。
たとえば料理人でも、厨房で黙々と作るフレンチが得意なコックもいれば、カウンター内の厨房で接客をしながら料理を提供するのが得意な板前もいますよね。フレンチのコックが寿司を握る腕を磨くよりも、得意なことを見極めたのなら、それを深掘りするのが良いですね。
星羅は幅広くライターとして活動するよりも、インタビューライターという肩書きが似合うな、と感じました。
自信がない……。そんなときでも取材を引き受けるべき?
僕は、星羅がライターを始めたばかりの頃に、「インタビューをするときは、自分が一番のファンだ。ファンを代表して聞きに行くんだ、という心構えで挑んでみて」と、アドバイスをしたことがあります。
星羅はそれをしっかりと覚えていて、実践してくれていました。でも、何人も取材をしていると、その通りにいかないこともあります。そりゃそうですね。「私では上手く取材できそうにない、上手く書けそうにない。そう感じたときも、仕事を引き受けるべき?」と、相談を受けました。
僕は、「無理に引き受けない方が良い」と答えました。
たとえば50%ほどやれる自信があるのなら、思い切ってチャレンジするのも良いでしょう。自分の能力を伸ばすきっかけになるからです。でも、自信がなければ、断るべきです。
なぜなら、書くのに普段の何倍も時間が掛かってしまうからです。しかも、苦手意識を持って苦しみながら書いた原稿は、クオリティが低くなりがちです。それでは依頼をくれたクライアントにも迷惑をかけてしまうことになります。
なんでも「できます!」というのは、決して正しいとは言えないのです。自分の得意分野が見極められてきたのなら、仕事を取捨選択できるようになるのも大切なスキルです。
取材前の雑談が苦手。いきなり始めてしまう
僕はお喋りなので、人との会話に困ったという経験はほとんどありません。取材をする前も、まずは雑談。空気感を滑らかにしてから挑むようにしています。
しかし、星羅は雑談が苦手で、挨拶をして早々に最初の質問事項を繰り出してしまうそうです。
取材時間がタイトな場合はそうすべきですが、時間に余裕があるときは、やはり雑談はあった方が良いでしょう。そこで僕は、「相手の近況をSNSでチェックしてから挑もう」とアドバイスしました。
相手が音楽アーティストの場合であれば、最新アルバムやヒット曲はチェックしているでしょう。でも、それは本題で聞きたいテーマ。最初の雑談は、相手との関係をリラックスさせるのが目的なので、軽い話題が適しています。そこで、Twitter、Facebook、InsagramなどのSNSをチェックして、近況を話題にするのです。
「インスタにあげてたあのお店、すごく美味しそうですね!」
食べ物のことでも、応援しているスポーツチームのことでも、家族のことでもなんでも良いのです。ただし、政治や宗教など、思想が関わる話題は避けましょう。
雑談は、取材に挑む前のウォーミングアップです。
まだ26歳、僕が編集・ライターを始めたのは33歳
そんな感じで、ライター業についての話をいろいろしました。
しかし、星羅はまだ若い!
僕は32歳まで一般企業にサラリーマンとして勤めていました。33歳の頃、編集者としてロッカーズ・アイランドに転職したのがメディアに関わり始めた最初です。僕のスタート地点である33歳になるまで、星羅はあと7年もあるのです。
ネットを見ていると、急速に活躍の場を広げたり、若くして目立ったりしている人をよく見掛けて焦りがちですが、誰しもがそうなれる訳ではありません。しかも急上昇には急降下のリスクがあります。じっくりと高みを目指して舞い上がれば良いと思います。
これからの活躍が楽しみです。
■與那嶺 星羅 (Seira Yonamine)
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