レゲエは独自のマナーがあるので、昔から初心者はそのコミュニティに入りづらいと言われています。
ちょっと古いたとえですが、挨拶がヤーマンだったり、イイ曲が流れたらゴンフィンガーを挙げたり(人差し指と中指をまっすぐ揃えて銃の形に)、バティマンを批判したり(男は男らしくすべし)など、レゲエを聴かない人からすれば「なにそれ……?」なことが多々あります。
その中のひとつが「ダンス」。
もちろん、ダンスとは踊ることなのですが、レゲエシーンではイベントのこともダンスと呼んでいるのです。
- レギュラーイベント → レギュラーダンス
- ビッグイベント → ビッグダンス
「最近、ダンス行ってる?」「今日のダンス、何着て行く?」「こないだのダンスで出会った女の子」といった具合に使われます。これは特に日本において顕著で、海外ではパーティと呼んだり、イベント名そのもので呼んだりすることも多いです。
では、なぜ日本では「イベント」=「ダンス」が定着したのか?
1990年代、レゲエファンの間では密かな論争があった
今でこそインターネットやSNSのおかげで全国規模で共通認識を持つことはできますが、それ以前、マスメディアで取り上げらにくいレゲエは、友達同士のコミュニティや地元コミュニティなど、小さな世界内での共通認識が主でした。
1990年代、当時僕は大阪にいましたが、レゲエイベントのことを「ダンス」「イベント」、もしくは「(ジャグリンやラブリッシュなど)クラブ名」で呼ぶことが多かったです。
そんな折、ジャパニーズ・レゲエ・アーティストのMoominが「Moonlight Dancehall(ムーンライトダンスホール)」を大ヒットさせました。1995年頃のことです。この曲は、それまでのレゲエの土臭さやイナタさとは打って変わって、お洒落だったのです。
男は、女の子を乗せてドライブするときには「ここぞ」というタイミングでこの曲を活用しますし、女の子もダンスで「Moonlight Dancehall」がプレイされるとうっとりとしていました。
そんな「Moonlight Dancehall」の歌詞に、こんな一節があります。
見上げればそこは星空
ずらりと並んだスピーカー
月明かりのしたで今夜
エンジョイ・ユアセルフ・ベイベー悩ましげな君の身体
いつまでもずっとこのまま
月明かりのしたで今夜 ウ〜ウ〜ウ〜今夜のダンスに
来てる君のこと気になる……Moomin – Moonlight Dancehall より引用
これが決定打でした。熱心なレゲエ好きの女の子たちは、これをきっかけに完全に「ダンス」へと傾倒していったのです。そして僕たち男も「ムーミンが言うんだから、ダンスで間違いないのだろう」と、心の中で密かに感じたものです。
メディアを使わずに、曲だけで全国的な共通認識を持たせたというのは、現代においては新鮮な気がしますね。
今回の記事は、レゲエダンサーI-VANのツイートを見て、ふと思い出したので書きました。ただし、あくまでも僕がいた小さなコミュニティから見た出来事(変化)として、「そんな意見もあるんだなぁ〜」的に気楽に読み流してもらえれば幸いです。
いや、違うぞ! なんてご意見ある方は、ぜひ教えてください。