雑誌が売れない時代になり、編集者ってどこへ転職するんだろ? 今こそウェブメディアと本気で手を組む好機

雑誌の売上が、32年ぶりに書籍を下回ったそうです。


雑誌の売り上げは女性ファッション誌などが大幅に落ち込んだほか、休刊する雑誌が相次ぎ、前の年度より9.9%少ないおよそ2435億円となりました。出版物の大手取り次ぎ会社の日販=日本出版販売によりますと、雑誌の売り上げが書籍を下回るのはおよそ32年ぶりだということです。

雑誌売り上げ 32年ぶりに書籍下回る:NHK NEWS WEB より一部抜粋


 

32年前というと1984年。ソニーが世界初のCDプレイヤーを発売したり、フジテレビ「森田一義アワー 笑っていいとも!」の放送が始まったり、流行語が「ウッソー、ホントー、カワイイー」だったりしました。エンタメ業界が盛り上がり、女性も社会へ大きく進出し、10年後のバブル絶頂期へと向かう超右肩上がりな時代です。

音楽業界も近年は苦境の話題に事欠きませんし、雑誌だけに限らず80〜90年代に流行したカルチャーが、全体的に後退しているのでしょう。

雑誌とウェブは、記事の作り方と制作コストが全然違う!

ところで、僕が常々気になっているのは、売れなくなった雑誌編集部の末路です。そこで働いていた皆さんは、一体どうされているのでしょうか?

新たな雑誌創刊に向けて頑張るのか、それとも書籍の方へシフトしてゆくのか。

僕は、雑誌やフリーペーパーといった紙媒体から依頼を受けて書くこともありますが、大半はウェブメディアとの仕事です。ライターとしてであったり、編集者としてであったり。

そこで気づくのが、紙媒体に関わる編集者の「プロ意識」の高さです。

まずは、編集部内でしっかりと企画を行い、それを実行するためのライター、カメラマン、出演者、撮影場所などを編集者が手配します。コンテンツの掲載先が雑誌というだけで、ここまではテレビ番組をつくる過程と似ていると思います。

取材などを行った後は、ライター、カメラマンなどが仕事を持ち帰って仕上げ、編集部に納品します。編集部は、届いたそれぞれの素材を確認。文章に関しては、校正・校閲者にチェックを依頼します。素材の準備が整うと、次は紙面にするためのグラフィックデザイナーにデザインの依頼。その上で、仮印刷されたゲラの色や内容などを再確認します。

とにかく雑誌というのは、仕上がるまでに様々なジャンルの専門家が関わり、結構な手間がかかっているのです。

それに対し、ウェブメディアは少々様子が違います。

新聞や雑誌など紙媒体が母体となっているウェブサイトを除くウェブメディアの多くは、IT業界、もしくはITに興味がある方から、その道へ進んで行く人が多い印象です。僕も最初はウェブサイトの制作、そしてブログの運営でしたし、「メディア運営のプロ」というより、「インターネットに詳しい」という方が多く集まっていました。

画像を美しいままどうやってデータサイズを軽くするか、検索エンジンにひっかかるためにはサイトの構造や記事をどうつくると良いかなど、インターネット上で戦うための戦略が必要だからです。

10年ほど前のことですが、僕はレゲエアーティスト、Mighty Jam Rockの名前を、同じ記事内で「Mighty Jam Rock」「マイティージャムロック」「マイジャ」と3パターンの表記を混ぜて書いていました。それを見た紙媒体出身の編集者から「なぜ統一しないのか?」と不思議がられましたが、僕の答えは「SEO対策」。そんなこともありました。ちなみに現在は、Googleが賢くなり、「Mighty Jam Rock = マイジャ」と判断できるようになってきているので、このテクニックは基本的に不要です。

また近年は、SNSの普及により、ウェブメディアの記事が読まれ、拡散される速度が早くなりました。公開した記事が2〜3時後にバズっている(アクセスが爆発している)というのは、SNS以前には考えられない早さです。

そのため、ウェブメディアはさらに速報性を求めるようになりました。

多くの人が注目するであろうイベントや事件があると、ひとりのライターが現場へ駆けつけ、自分で写真を撮り、その場で記事を書き、さらにその場からノートパソコンを使って記事を公開する。もしくは、最終のチェックのみ編集部が携わる。その程度で記事が公開されることは多々あるのです。

ひとりでマルチにこなさないといけない、という訳ですね。

また、もうひとつ違いを言えば、雑誌は雑誌そのものを売ることができますが、ウェブメディアはほとんどが無料です。ガラケー時代は、月額300円を払ってそのサイトの記事を見る、なんてのもありましたが、スマホ時代の現代は、無料が基本でしょう。

ですので、ウェブメディアは、記事の制作費をあまりかけられないのです。1990年代の雑誌全盛期は、ビジネスクラスの飛行機で優雅に海外取材、なんてのは当たり前のようにあったそうですが、 ウェブメディアでそんな豪勢な編集部やライターは知りません。

同じ5,000文字のコンテンツでも、20年前の雑誌と今のウェブメディアでは、制作コストは全然違うのではないでしょうか。

とにかく、読み手としては「雑誌とスマホの違い」程度ですが、作り手から見ると「制作の過程」は全然違うのです。

ウェブメディア編集者の弱み。それは……

ズバリ、編集に関しての基礎知識と経験の欠如です。

出版社など紙媒体で活躍する人たちは、そこに至るまでに、専門学校で学んだり、資格を取ったり、先輩(師匠)から鍛えられたりしたと思うのです。実践の中で、スキルを磨きつつ、業界マナーも学ぶ。

それに対し、多くのウェブメディア関係者は、独学の方が多いのではないでしょうか。ブロガーからライターになったり、ライターなのに写真撮影も行ったり、IT系企業に就職したらメディアの運営担当になってしまったり。

ウェブメディアは、さかのぼれば1990年代のインターネット創成期からあったと思うのですが、本格化しだしたのは、2010年代のスマホ時代からです。それまでは、なんちゃって編集者でもどうにかなったのが、最近はスキルフルな編集者やライターが求められています。

そこで僕は、雑誌関係者はウェブメディアへ転身してはどうか、と思うのです。

SEOやSNSなどウェブに関しての知識や経験はとぼしくとも、メディアを運営することや、記事を作り上げることについては、相当なスキルがあります。紙で百戦錬磨した方がウェブ業界で暴れまわることで、ウェブメディア業界は良い刺激を得ることができると思います。

お互いの慣習の違いで衝突することもあるかと思いますが、それも一時のこと。結果的には、良いメディアをつくることができるのではないでしょうか。

メディア同士の横つながりが低い

逆パターンとしては、ウェブメディアに長けた人が、雑誌に攻めて行くのもアリです。

雑誌には良いコンテンツがたくさんあるのに、ウェブサイトがしょぼかったり、SNSが活用できていなかったりで、ガッカリさせられることはよくあります。そこを強化しに行くのです。

もう一度繰り返しますが、読者にとっては雑誌がスマホになっただけ。ファッション、音楽、ビジネス、料理、健康などに関心がなくなった訳では無いのです。メディア関係者だけが、紙とウェブを勝手に分け隔てているように感じます。

もちろん、相互交流はすでに行われていますが、現状は「もったいない」状況です。

もっと、もっと、紙とウェブがガッチリとタッグを組んで行くことで、業界は活性化するはずです。まず、その一歩として、衰退する雑誌編集者の方、ぜひウェブメディア業界へ。

【参考】雑誌の印刷部数

一般社団法人 日本雑誌協会のウェブサイトでは、雑誌の印刷部数が公表されています。各ジャンルより代表的な雑誌をピックアップしました。ただし印刷部数なので、実売数はこれより少なくなります。

とにかく漫画が強い! 男性ファッション誌の代表格「MEN’S NON・NO」より「趣味の園芸」の方が部数が多い。「hanako」より「クロスワードメイト」が部数が多い。〇〇ウォーカーシリーズが全然売れていない、中でも東京が最低。

いろいろ比較してみると、みんな何に興味があるのかが見えてきて面白いですよ。

<女性誌>

  • 女性自身(光文社) – 367,000
  • サンキュ!(ベネッセコーポレーション) – 314,000
  • きょうの料理(NHK出版) – 308,000
  • VERY(光文社) – 310,800
  • オレンジページ(オレンジページ) – 301,020
  • MORE(集英社) – 263,333
  • LEE(集英社) – 256,667
  • non・no(集英社) – 246,667
  • SEVENTEEN(集英社) – 235,000
  • ViVi(講談社) – 226,667
  • クロワッサン(マガジンハウス) – 214,667
  • いきいき(ハルメク) – 193,667
  • with(講談社) – 199,667
  • りぼん(集英社) – 180,000
  • レタスクラブ(KADOKAWA) – 155,500
  • ひよこクラブ(ベネッセコーポレーション) – 132,533
  • CanCam(小学館) – 128,500
  • 美的(小学) – 113,333
  • なかよし(講談社) – 105,500
  • Hanako(マガジンハウス) – 86,900
  • たまごクラブ(ベネッセコーポレーション) – 74,933
  • 家の光(家の光協会) – 534,067
  • ESSE(扶桑社) – 47,500

<男性誌>

  • 週刊少年ジャンプ(集英社) – 2,238,333
  • 週刊少年マガジン(講談社) – 1,038,450
  • コロコロコミック(小学館) – 870,000
  • 週刊ヤングジャンプ(集英社) – 561,250
  • ビッグコミックオリジナル(小学館) – 517,333
  • 週刊文春(文藝春秋) – 646,692
  • 週刊新潮(新潮社) – 503,817
  • 文藝春(文藝春秋) – 476,667
  • ヤングマガジン(講談社) – 420,000
  • PRESIDENT(プレジデント社) – 293,600
  • ベストカー(講談社) – 250,833
  • Safari(日之出出版) – 197,583
  • Tarzan(マガジンハウス) – 168,000
  • 月刊ゴルフダイジェスト(ゴルフダイジェスト社) – 149,683
  • サライ(小学館) – 144,333
  • 週刊ダイヤモンド(ダイヤモンド社) – 130,023
  • Sports Graphic Number(文藝春秋) – 130,000
  • WEDGE(ウェッジ) – 119,942
  • Men’s JOKER(ベストセラーズ) – 117,970
  • SPA!(扶桑社) – 113,290
  • MEN’S NON・NO(集英社) – 110,000
  • POPEYE(マガジンハウス) – 107,333
  • Begin(世界文化社) – 103,500
  • Casa BRUTUS(マガジンハウス) – 100,333
  • AERA(朝日新聞出版) – 95,923
  • BRUTUS(マガジンハウス) – 82,700
  • LEON(主婦と生活社 ) – 82,300
  • Pen(CCCメディアハウス) – 71,200
  • ニューズウィーク日本版(CCCメディアハウス) – 57,862

<男女誌>

  • Vジャンプ (集英社) – 236,667
  • NHKためしてガッテン(主婦と生活社) – 190,600
  • たのしい幼稚園(講談社) – 175,000
  • てれびくん(小学館) – 171,500
  • めばえ(小学館) – 165,000
  • ベビーブック(小学館) – 155,000
  • 趣味の園芸(NHK出版) – 136,767
  • dancyu(プレジデント社) – 127,600
  • JR時刻表(交通新聞社) – 118,823
  • 幼稚園(小学館) – 115,000
  • ディズニーファン(講談社) – 114,333
  • BE-PAL(小学館) – 105,000
  • いぬのきもち(ベネッセコーポレーション) – 93,667
  • クロスワードメイト(マガジン・マガジン) – 91,610
  • ねこのきもち(ベネッセコーポレーション) – 89,167
  • アニメージュ(徳間書店) – 80,033
  • 関西ウォーカー(KADOKAWA) – 53,667
  • 東海ウォーカー(KADOKAWA) – 47,667
  • 横浜ウォーカー(KADOKAWA) – 44,833
  • 福岡ウォーカー(KADOKAWA) – 32,100
  • 東京ウォーカー(KADOKAWA) – 30,333