「メディア」と「ファン」が一体となって楽しめるよう、イベントが行われることがよくあります。テレビやラジオの公開収録、カルチャー誌の音楽フェス、ウェブメディアの勉強会など、その形式は様々です。
そんななか、2003年に休刊した雑誌「マイコンBASICマガジン」が、12年のブランクを経て「はじめての読者イベント」という、一見無謀な企画が告知されました。12年間も音沙汰なしということは、すっかりファンも離れて行っているはず。しかし、いざ前売りチケットが発売されると、わずが30分で完売!
なんという盛況、いや殺到ぶり。
僕は、この日のために枚数限定のVIPチケットを狙っていたのですが、たった2分ほどで売り切れ、悔しいながらも一般チケットを購入しました(それでも激戦)。
この恐るべし根強いファン達が集う「読者イベント」って、一体どんなものなのか? 11月8日(日)東京・秋葉原のアーツ千代田3331へ行ってきました。そのレポートをお届けします。
その前に「マイコンBASICマガジン」は、なぜすごいのか?
僕が生まれた頃、コンピューターは一般の人にとっては無縁のものでした(1973年生)。1970年代、マニア向けにキットが発売されましたが、今のようにキーボードやマウスやモニターはおろか、ケースすらなく、基盤がむき出しでした。
これが、家庭用コンピューターの先駆けとなったNEC「TK-80」(1976年発売 / 価格89,500円)。
それから3年後の1979年、NECが「PC-8001」を発売(価格 168,000円)。これが大ヒット! 家庭用コンピューターのブームをつくりました。
しかし、当時の大卒男子の初任給は約9万円。2015年現在はおよそ20万円ですので、今の感覚に当てはめると37万円ほどになります。コンピューターが必須ではない時代において、相当な贅沢品だったのではないでしょうか。
さらに2年進んで、1981年。NECは「PC-6001」を発売しました。価格は89,800円。グッと安くなり、「P6(ピーロク)」「パピコン」の愛称で呼ばれ、家庭用コンピューターとして身近な存在になったのです。PC-6001の特徴は、『9色カラー表示』『ひらがな表示』『三重和音』など。
わが家では、これを父親が買ってきて、僕のコンピューターデビュー機になりました。当時、僕は8歳。
「コンピュータ、ソフトなければタダの箱」
by 故 宮永好道氏
この頃のコンピューターは、インターネットもアプリのダウンロードもありません。さらにWindowsやMac OS XといったOSすらありません。プログラムがないと全く何もできない、本当に「ただの箱」だったのです。
当時のコンピューターユーザーは、ほぼ全員がプログラマーでした。レベルの差はあれ、プログラムを打たないと何もできないので、プログラミングの習得は必須だったのです。僕は、小学校5年生か6年生の頃に、「看守の目を盗んで、牢屋から脱出する」というゲームを、このPC-6001でつくりました。
そんな折、創刊したのが「マイコンBASICマガジン」でした(発行元:電波新聞社)。マイコンBASICマガジン、通称「ベーマガ」は、PC-6001発売の翌年1982年に誕生。
紙面にはたくさんのプログラム、主にゲームが掲載されており、特に子供や若いコンピューターユーザーは夢中になって熟読し、自分でプログラムを打ち込み、ゲームを楽しみました。当時、9歳だった僕にとっては、とても夢が広がっている雑誌で、「はじめての青春時代はベーマガと共にある」といっても過言ではありません。
その頃、僕はベーマガの読者コーナー(OFコーナー)に投稿し、何度か掲載されました。編集部の方からコメントをいただき嬉しかった思い出があります。僕にとってベーマガは、プログラミングの楽しさだけでなく、メディアの面白さも教えてくれました。インターネットがない時代において、ベーマガは巨大掲示板のごとく、全国のマイコン・ファン達が集っていたのです。
ホリエモンさん(1972年生)も、そのうちの一人。
私もベーマガ投稿してました笑 RT @GOROman: すっかり忘れていたが、今週末はベーマガ祭 ベーマガことマイコンBASICマガジンが休刊12年目で初イベント開催。出身者や編集者が集結 https://t.co/jPrY4E8EGr @engadgetjpさんから
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) 2015, 11月 6
ということで、いざ青春のベーマガ・イベントへ!
イベントは「ALL ABOUT マイコンBASICマガジン」には、およそ450人が集まったそうです。30分で完売したチケットをゲットしたほどの熱心なベーマガ・ファンの集いですので、「ベーマガに目を輝かせていた、あの頃の子どもや若者たちが、こんな大人たちになったんだなぁ!」と、とても感慨深い気持ちになりました。
ちなみにフロアは99%男性。
いや、魔中年(© 見城こうじ)。
42歳の僕がまだ若い方、というのが何とも不思議な空間でした。
イベントの開催時間、14時から18時予定でしたが、1時間延長したので、たっぷり5時間のトークイベント。これで3,000円はお得すぎる! と思えるほど、ベーマガ・ファンに向けて惜しみなく披露してくれる、濃〜い内容でした。
「イベントの詳細を伝えるような、実況などのSNSは発信はダメ」とのルールでしたので、この記事においては、僕が個人的にグサッと刺さった部分のみ紹介します。
第1部「ベーマガ編集部大集合!」
- 大橋太郎(編集長)
- 及川 健(編さん)
- 増田克善(影さん)
- くりひろし(漫画家)
「子どもの為のマイコン雑誌として、ベーマガは誕生した。お堅い電波新聞社のなかでは異色の編集部だった」by 編集長
「編集部へのプログラム投稿は、カセットテープが主流。テープ代のお小遣いがないのか、おばあちゃんの演歌のテープに上書きして送ってくれる読者もいた。ロードエラーも多かったなぁ」by 編さん
「OFコーナー(読者からのメッセージ)に添える編集部コメント。すべてにオチをつけないといけないので、何気にこれが一番大変だった」by 影さん
「つぐみちゃん(ベーマガ編集部のアイドル)は、実在します」by 編さん
「つぐみちゃんにも出演オファーをしましたが、もう年齢を重ねているので読者のイメージを壊してはいけないので出演は辞退します、とのことでした」by 山下章
ベーマガには編集部の方が各所に登場するのですが、誰も顔出しをしていない。すべて漫画家くりひろし先生によるイラストなので、それぞれが実在するのか気になっていました。しかし、編さん、影さんがいることが判明! さらに絶対に架空だと思っていたつぐみちゃんまでいたとは……。
第2部「集え!スタープログラマー」
- 森巧尚
- 谷裕紀彦(Bug太郎)
- 断空我
- 古代祐三(YK-2)
- 永田英哉(Yu-You)
「プログラムを改造して、残機を増やしたり、ゲームを優しくしたりするのも、ベーマガの楽しみでしたねー」by 山下章さん
ベーマガにプログラムを投稿していた常連さん、スタープログラマーが集まりました。このコーナーでは、実際にステージで昔のパソコンを使って、当時のゲームを披露。RX-78(バンダイ)、PC-8801(NEC)、ポケコン(SHARP 機種名忘れた)でゲームをする姿は、チープには見えるものの、「おぉー!よくできてる」と思う感激は、なぜだか当時と変わらないものでした。会場でも何度も感嘆の声が。
また、女子高生ゲームプログラマー「高橋はるみ」さんの話題ににもなり、彼女もつぐみちゃんと同じく架空との噂もあったのですが、実在するという証言も。
第3部「我らゲームライター第一世代」
- 大堀康祐(うる星あんず)
- 鈴木宏治(見城こうじ)
- 手塚一郎
- 池田雅行(響あきら)
- ベニー松山(TOMMY)
「ベーマガは、まさに自分が読みたい雑誌だった。編集部に手紙を書いて、後日編集部を訪問。その場で『記事を書いてみなさい』といわれ、行ったその日にライターとしての人生がはじまった」by お名前失念しました!
とにかく皆さん熱い! マイコンやゲームが好きすぎて、高校生や大学生でライターとしてデビューしているのです。どうやってライターになっていいのかわからなくても、「自分はこんな記事を書きたいんだ!」の情熱を持って、パソコン雑誌の編集部に訴える、自費出版でゲーム本をつくる、など烈火の勢いで突き進んでおられました。
「10代の頃の情熱は、内に秘めるのではなく、爆発させるべきだな!」と感じ入りました。かっこいいライター陣でした。
情熱の塊、山下章さんに最大級のリスペクト!
冒頭でも書いた通り、12年前に休刊した雑誌の読者イベントを開催するなんて無謀すぎます。それを企画し、実現し、成功させた山下章さん。
その情熱は本当に素晴らしいです。
イベントの節々から『ベーマガ愛』、そして『読者への愛情』が伝わって来る、最高のイベントでした。
山下章さんによる最後の挨拶では、「今、目の前にある仕事、家事、子育て、趣味。なんでもそれに熱中していると、5年後、10年後には、あの頃はキラキラした時代だったな、と思えるはずです」とおっしゃっていました。ベーマガで熱くなったあの頃の気持ちは、決して過去だけのものだけでなく、今現在も、これからの未来でも待っている、というのです。
「ALL ABOUT マイコンBASICマガジン」では、最高のひとときを過ごすことができました。山下章さん、出演者、関係者の皆さん、心より感謝とリスペクトを申しあげます。
【追記 2016.3.28】
イベントのダイジェスト映像が公開されました。ダイジェストといってもトータル約50分。見応えたっぷり!